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生と死のはざまを撮り続ける写真家 荒木経惟ーー日本を代表するギャラリストはアラーキーの作品について何を語るのか

「アラーキー」という呼称で知られている、写真家・荒木経惟。今回、荒木氏の作品がArtStickerに加わったことをきっかけに、日本でも有数のギャラリーであるタカ・イシイギャラリーのオーナーである石井孝之氏に、荒木氏との25年間の交流を通して感じた、「アラーキーの写真の魅力」について訊きました。

ーータカ・イシイギャラリーは主に写真を取り扱っていらっしゃいますが、なぜ写真だったのでしょうか?

写真が好きというのはもちろんありますが、日本の優れているけれど、まだ世界ではきちんと観られていない写真家を紹介したかったことが大きいです。

ーー荒木経惟さんとは25年間お付き合いがあり、今回で27回目の個展ということですが、荒木さんの写真を扱い始めた経緯をお聞かせください。

もともと荒木さんの写真は見ていたんですがお会いしたことはなく、どうしたらコンタクトが取れるかと考えていました。そうしたらちょうど、うちのギャラリーのオープニング展だったラリー・クラークというアメリカの写真家の展覧会に荒木さんが来てくださって。そこで、「展覧会を開催しませんか」とお願いしたら快諾してくださったんです。開廊展の次の次の展覧会だったと思いますが、「濹汁綺譚と陰毛礼讃」というタイトルの展覧会を開きました。そこから2年に1回のペースで展覧会をするようになって。1年に1回ペースでやるようになったのは最近ですね。一度、誕生日に展覧会をやったら、毎年やらなくちゃいけない雰囲気になって(笑)、それから今回まで15年くらい続いています

荒木経惟 「梅ヶ丘墓情」展示風景 タカ・イシイギャラリー東京 2019 年 5 月 25 日 - 6 月 15 日
Courtesy of Taka Ishii Gallery Tokyo / Photo: Kenji Takahashi


ーー荒木さんはこれまで、生身の女性で作品を撮られてきていましたが、今回は人形が被写体で、すこし趣が違いますよね。

人形を自分に置き換えて、向こうから自分が自分を見ているという意味を込めているらしいです。人形って少し怖いですよね。生きているようで生きていない。死を感じる不思議な物体です。それも含めて、生と死のはざまを強く感じます

ーー今回の展覧会のタイトルには「梅ヶ丘」という地名がつけられています。これは荒木さんのご自宅がある場所だと伺いました。

そうですね。梅ヶ丘にある自宅のバルコニーで撮った写真です。梅ヶ丘に移る前の家にはとても大きなバルコニーがあって、妻の陽子さんをよくそこで撮影していたんです。陽子さんが亡くなったあと、今またバルコニーで撮影していて。

ーー思い出の場所がバルコニーということでしょうか。

思い出の場所というよりも、荒木さんは身の回りのことだけで一冊できる写真家なんです。いわば、バルコニーだけで一冊の写真集ができてしまう。日常を切り取って作品化する人なので、小さなバルコニーでもストーリーが成り立たせることができるんですね。「写真なんてそんなものだ」と昔言っていたと思いますが、そうじゃないと一流の写真家と言えない気がします。

ーー生活の中に常に写真があるんですね。

今回の作品のエピソードで言うと、一度、お掃除にきていた人がセットしていた人形などをゴミかと思って隅によせてしまったことがあったらしいんです。荒木さん、最初はやっぱりちょっと怒ったんだけど、少しして「あ、いいじゃん」と思って写真にしてしまって。起こったことをそのまま写真にするのが荒木さんなんですよね。花も、美しく咲いたものをセッティングして撮るのはもちろん、それらが朽ちていく様子も撮影するんです。そういうところにも生と死が表れていますね。「写真は死だ」と言われてはいますが、今回は特に「死」が色濃く出ていると思います。


ーー25年の中で、石井さんが感じる荒木さんの作品の変化はありますか?

今回でいうと、タイトルに地名をつけるのは珍しいですね。「東京」はよくタイトルに使っていましたが、どんどん範囲が狭くなっています。しかもバルコニーという小さな世界で。
荒木さんの作品の変化は、自分の身体や身の回りの変化と直結しています。飼っていたネコが死んだり、目が見えなくなったときには片目で見た風景をそのまま表現したり。身の回りの変化をダイレクトに作品にしていくんです。妻の陽子さんとのことも、ハネムーンを写真集にしたり、亡くなったときも作品にしたりして。人生そのものなんです。写真家の森山大道さんが「荒木さんは写真になってしまった人だ」と言っていましたが、まさにその通りだと思います。

ーー石井さんにとって荒木さんの作品の魅力はとは?

生と死を一貫して扱っているところでしょうか。ずっとぶれずにこだわり続けるのはすごいですよね。特に最近の作品は死を意識しています。自分がどんどん死に近づいているのを意識的に撮っている。今年で79歳になるので、先がそんなに長くはないし、色んな死に直面もしている。親、妻、友人、ペットの死と身近な人達が亡くなって、今は自分の死について考えた作品を作りたいと思っているのではないかと思います。佐内正史という写真家が今回の作品を観て、「荒木さん、本当にひとりで撮っている感じがする」と言っていました。さびしい写真ではないけど、「ひとりになったんだ」ということを強く感じたみたいです。なにもメッセージを伝えてないのに、そういうことが読み取れるのがが荒木さんの作品なのだと思います。とは言え、来年80歳になったら、真逆の元気な作品を撮っているかもしませんが(笑)。


石井孝之 タカ・イシイギャラリーオーナー
1963年東京都生まれ。現代美術ギャラリー、タカ・イシイギャラリーの創業者。 独自の審美眼と国際的な視座で、国内・国外、キャリアやメディウムなど様々な作家とともに、多彩なプログラムを四半世紀にわたり展開。荒木経惟、森山大道など大御所写真家の他、新進気鋭のアーティストの作品を扱う。


タカ・イシイギャラリーでは、2019年6月25日(火)から開廊25周年記念グループ展「Survived!」展がはじまります。ギャラリーアーティスト35名によるグループ展を3会場にて同時開催する本展覧会では、当企画展に向けて制作された35名の作家の新作や未発表作品を中心に展覧されます。ギャラリーの歩みの一端を見ることのできる貴重なこの機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

【参加作家】
荒川医、荒木経惟、トーマス・デマンド、エルムグリーン&ドラッグセット、ルーク・ファウラー、マリオ・ガルシア・トレス、五木田智央、畠山直哉、法貴信也、石田尚志、伊藤存、サーニャ・カンタロフスキー、川原直人、アネット・ケルム、木村友紀、クサナギシンペイ、桑山忠明、ショーン・ランダース、前田征紀、ヘレン・ミラ、森山大道、村上華子、村瀬恭子、野口里佳、ウィリアム・J・オブライエン、シルケ・オットー・ナップ、スターリング・ルビー、杉浦邦恵、鈴木理策、武田陽介、竹村京、マリア・タニグチ、登山博文、クリストファー・ウール、ケリス・ウィン・エヴァンス


ArtStickerは、アーティストへ「好き」や感動の気持ちをおくれるプラットフォームです。
荒木経惟氏の最新個展「梅ヶ丘墓情」の一部もArtStickerでご覧いただけます。
コーヒー1杯分のお金からはじまる、アーティストとのつながり。

小さな「好き」の気持ちが連鎖して、アートの世界を広がっていきます。
ArtStickerで、今までにないアート体験を!



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TCMは「世の中の体温をあげる」という想いをかかげ、「Soup Stock Tokyo」等を手がけてきた遠山が構想する「新たなアート体験」に、PARTYが得意とする「デジタルでの体験設計」を融合させ、アートと個人の関係をテクノロジーで変革させ、新たな価値の提示を目指しています。

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