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何かを突きつめてこそ、変化を感じることができる。  アーティスト・青山悟が抱き続けた信念の先に出会った、アートの可能性とは

工業用ミシンを用い、近代化以降、変容し続ける人間性や労働の価値を問い続けながら、刺繍というメディアの枠を拡張させる作品を数々発表している青山 悟さん。
アーティストとして創作するなか、アート業界以外に向けてアートセミナーを開催されるなど、活動の幅を広げています。

今回、アーティストになられたきっかけから「アート×ビジネス」の可能性についてまで、お話を伺いました。


アーティストとしてのキャリアは、思ってもみなかったことの連続。
その偶然に出会うためにこれからも続けていく

ー青山さんは、どういった経緯でテキスタイルを扱うアーティストになられたのですか?

大学を98年に卒業して、もうかれこれ二十年以上前の話になりますかね。ロンドンのゴールドスミスカレッジのテキスタイル科を出ているのですが、向こうのテキスタイル学科って、デザイン科じゃないんですよね。女性だけがいるような、言ってみればジェンダースタディーな学科でした。
そこにいる先生たちはみんなフェミニストで、男は自分含め、二人三人しかいませんでした。

テキスタイルといえば布製品をつくるための「テキスタイルデザイン」を想像される方が多いかもしれませんが、ここは技法を使ってデザインではなくアートとして表現していくことを学ぶって、そういうところで。
女性が社会に参画していく中で、アートってどうしても男性優位社会というか、そういう歴史がずっとあるんですけれど、その歴史において女性が男性社会を乗り越えていくために、最初は刺繍学科として始まったらしいです。

だから最初、自分がやりたいことってデザインだったので、実際に入ってみたら内容も環境も想像していたものとは全然違くて。その学科が設立された歴史の最後の方に男の学生として入ったんですけれど、いきなりジェンダースタディーのコースで、男はほぼひとりでしかも日本人で、というかんじだったので、全く付いていけないですよね。で、最初の年から留年して、一年生を二回やりました。

けれど、やっぱり周りに勝つためにはもう、ひたすら勉強するしかないと思ってがむしゃらに手を動かしました。その結果、卒業時には良い成績をおさめられたのと同時に、展覧会への出展が決まったんです。

大学の学部長の人がキュレーションした「Boys who sew展(男性だけの刺繍展)」という展覧会で、卒業生たちだけでなくて、刺繍表現を行う男性アーティストが広く参加していました。
それに呼ばれたのが、作家としてのキャリアのスタートだったと思いますね。

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ー青山さんは、高校時代からイギリスで生活されていて、その後シカゴの大学院へいった後、再びロンドンへ戻りアーティスト活動を続けられていたとのことで、15年以上の海外生活をされていらっしゃいますよね。
それだけ海外で過ごしていらして、東京に戻ったあと環境がだいぶ変わったと思いますが、
ご自身の制作に何か影響はありましたか?

そうですね。多分あのままロンドンに住んでいたら今の作品にはなっていない気がします。
もう少し、海外から日本を見つめるような客観的なスタンスになってくると思うんですよね。
実際、最初の方の作品はそうでしたね。日本のランドスケープとかを発表していたりして。海外にいるからこその日本人のアイデンティティーというのを意識していました。

でも逆に、今は日本にいるので、日本から海外を見つめていくというか。
作品の質がすごく変わったと思いますね。自分の政治主張みたいなものがないとは言わないですけれど、そこはなるべくフラットにいろんな価値観を取り込んでいこう、という考えが作品作りのベースになることも増えてきました。


ー視点は変わったけれど、”刺繍” という制作の手法は一貫して変わらなかったのですね。

今のアートって、コンセプチュアルベースだからアーティストが手法にとらわれずにいろんなことをやることが多くなってきていると思うんですね。それももちろん、大切なことです。
ただ一方で、何か一つのことをやり続けるからこそ、色んな所に接続できるような可能性もある気がするんですよね。そういう意味で一つのことをやっているんだけど、まだまだやり尽くせていないというか。

例えば僕の場合、ミシンでバンドに参加してライブをやったりとか(笑)
昔、ギターをひいていた時があって、ずっとバンドをやりたいなと思っていたんですね。そっちは諦めたはずなんだけど、いつの間にかミシンを楽器にして実現しちゃってる、みたいな。コンタクトマイクをつけて、音を増幅させて、手元は映像で映して。ノイズ的には簡易的な感じにはなりますけど、ノイズ+VJ担当ですね。

そういう展開は、ミシンをやり始めた頃にはもちろん、全く思いつかなかったことで、続けていくうちにできることの幅だったり、人脈や作品を通じていろんな広がりが出てきますよね。どんどん拡張していっているというか。だから、何か軸があると、そこから思ってもみなかった未来が広がったりするから、これからどんな出会いがあるかまだまだ楽しみですよね。

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「News From Nowhere (Labour Day)」
2019 シルクスクリーンプリントに刺繍, ドローイング 100×140cm, 撮影:宮島径
©︎AOYAMA Satoru, Courtesy of Mizuma Art Gallery

青山さんの代表作品の一つ。19世紀のニューヨークで行われた「労働者の日」のパレードを描いた有名な絵をシルクスクリーンで拡大し、そこに近年世界で起こったデモの旗や自身のスローガンを謳った旗などをミシン刺繍で加えながら、現代の風刺画へと変換した。作品中には映画の登場人物を演じている著名人から青山さんの知人まで、ウォーリーを探せのように存在しているなど、遊び心も散りばめられている。



新たなテクノロジーの誕生によって、
今後「アート×ビジネス」という考え方はより重要性を帯びてくる

ー先日、Mizuma art galleryで行われた展示を拝見しましたが、展覧会のタイトル「The Lonely Labour」に込めた思いはありますか?

「The Lonely Labour」って、映像作品のタイトルなんですよ。コンピューター・ミシンがウィリアム・モリスによる手書きの文章を全自動で縫っていく様子を納めた映像作品なんですけれど。
ミシンって、言語の一つとして労働というのがあって、その労働者たちが搾取されたり、厳しい労働環境に対して抵抗して、とかいろんな歴史が内包されているんです。そういうのが「The Lonely Labour」にかかってくるし、新しいテクノロジーがどんどん生まれて、人間が手を使って仕事をする労働者って考えれば、絶滅危惧種ともいえますね。そういう意味ではミシンを使って作品制作している自分も、絶滅危惧種の一人なんじゃないのかな?っていう思いもあったりして。

自分自身への危機感と、実際、社会の絶滅危惧種と考えられる人たちがシンクロする部分が、ミシンを使っているとやっぱりあるので、それ自体がテーマになっている展示でもあるんですよね。
例えばネーム刺繍ミシン(※)を使っている人たちが、コンピューターミシンにどんどん仕事を奪われてしまっているという、自分たちの仕事がリプレイスされていってしまうという変化を風刺として表現したかったんですね。

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「The Lonely Labourer」
2018-2019 4Kビデオ
©︎AOYAMA Satoru, Courtesy of Mizuma Art Gallery


ーまさに、変容し続ける人間性や労働のあり方について問い続けていらっしゃる青山さんらしい作品だと思うのですが、
数年前から青山さんがアートセミナーを行なっている理由にも繋がってくるのでしょうか?

先ほどのLonely Labourも、社会における仕事の変遷というのがテーマにありましたけれど、
仕事によってはこれからAIだったり新しいテクノロジーが取って代わってしまうような人たちもいると思うんですよ。

言ってみればどんな仕事に対してもクリエイティビティが求められるようになる。
それが、アート×ビジネスが近年これだけ声高にうたわれるようになってきていることの背景にあると思うんです。

欧米にそういう流れがあるようにアートが投資の対象になるからっていう見方もあると思うんですけど、それだけじゃなくて、これから自分の職業が変わっていくっていうそこに対して危機感を持っている人たちというのは多いんじゃないかな、と。

けれど、やっぱりアートって皆さんとっつきづらいと思うんですよ。わからない、苦手、描けないとか。
だけど、僕もはっきり言ってわからないし、世の中わかるものばかりじゃなくて、わからないものがあっていいんですよね。

わからないからこそいいんだよ、わからないということをポジティブに考えていくことが大切、ってことを伝えたくて、クリエイティブジャングルの竹林陽一くん、画家の原良介くんと一緒に一昨年ぐらいからアートセミナーを開催するようになりました。

影響力のある人が大きい声でいうっていうのも一つの手かもしれないけど、やっぱり草の根的に地道に垣根をはらっていくことが大切だなと。
僕たちの場合、ただ聞かせるだけの座学というよりかは、皆さんにもアーティストとして作品を作ってもらうために2、3時間ぐらいでアートの歴史や作家になるための心得みたいなものをざっと説明して、三人一組でアート作品をつくるっていう、そういうことをしています。

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アイスブレイクの実践として推奨しているのが、ジャンプしながらドローイングを描くこと。上手に描くことができない状態をあえてつくり、うまく描かないといけない、とか、アートってこう描かなければならないという固定観念を一度外させることが目的だ。


主に視覚で表現するアーティストにとっても、言葉はとても大切なもの。
自らの言葉を発して、そして他者の言葉に勇気付けられる。
ArtStickerはそれが叶う場所

ー最後に、ArtStickerを使ってくださった感想をお伺いしたいです。

作品を作るとき、アーティストのなかで一つ一つ決断があって、その決断を言語化できるかどうかって結構、大事だと思うんですよ。
作家って、作品作ってるだけでしょって思っている人が多いと思うんだけど、感覚だけではなくて、やっぱりなんだかんだ言って、言葉で説明しなければならないことって多いんですよね。
例えばプレスリリースとかだって言葉がありますし、作品タイトルもありますし。

だから、自分たちが下している決断を一つ一つ言語化して、説明していくトレーニングが必要なんです。僕たちのワークショップで三人一組で作品を制作してもらうのも、会話が生まれることで自然と決断の説明がなされるから。そういう意味で作品を画像と一緒にきちんと言葉で伝える努力をしなくてはならないArtStickerは、若手のアーティストにとってなんかは特に、良いトレーニングの場になるのではと思いますね。

あとはやっぱりね、支援されると本当に嬉しいですよね。例えば僕の場合、個展中って結構、メンタル的に絶不調になるんですよ。
はたから見たらただの燃え尽き症候群なのかもしれないけれど、「本当にこれでよかったのか?」っていう疑問が、会期中に常に浮かぶんですよ。

おそらく個展って自分の中の期待値が大きくて、実際はその大きさに追いつくことができなかったりする。しかも売れなかったらどうしようとか、みんなは作品をみてどう思っているんだろうとか、ぐるぐると考えてしまうんです。

そんな時に以前、「このまま突き進んでください」というコメントをArtStickerでいただいたことがあって。その些細な一言に、ものすごく救われたんですよ。

自分がそういう経験をして、アーティストの葛藤みたいなものとか不安はとてもよく理解できるので、
自分がされてうれしかったことはやっぱり他の人にもしたいから積極的にいろいろな方にスティッカーを送っています。
ArtStickerは、それを実現できる場所ですね。

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1940年代製造のアイリッシュミシン。青山さんが学生の頃に、当時70歳くらいのイギリス人の女性から買い取ってから今まで、ずっと使用しているもの。

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さまざまな色の刺繍糸も欠かせない。まるで秘伝のたれに継ぎ足し続けるかのごとく、常に膨大な量をストックしている。


〜青山悟プロフィール〜
1973年、ロンドン・ゴールドスミスカレッジのテキスタイル学科を1998年に卒業、2001年にシカゴ美術館附属美術大学で美術学修士号を取得。
工業用ミシンを用い、近代化以降、変容し続ける人間性や労働の価値を問い続けながら、刺繍というメディアの枠を拡張させる作品を数々発表している。


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青山悟さんによるワークショップ
「クリエイティビティを爆発させる!アート講座 Part1」
2020年2月19日開催
https://peatix.com/event/1421717

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展覧会情報

「数寄景/ NEW VIEWー日本を継ぐ, 現代アートのいま」
(2020.2.1-3.8 /三菱地所アルティアム、福岡、2020.2.26-3.8 福岡三越9階「三越ギャラリー」)

「ドレス・コード?着る人たちのゲーム」
(2019.12.8-2.23 / 熊本市現代美術館)
https://www.camk.jp/exhibition/dress_code/
(2020.4.11-6.21、東京オペラシティ アートギャラリー)
https://www.operacity.jp/ag/exh/lineup_exhibitions/2020_index.php

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TCMは「世の中の体温をあげる」という想いをかかげ、「Soup Stock Tokyo」等を手がけてきた遠山が構想する「新たなアート体験」に、PARTYが得意とする「デジタルでの体験設計」を融合させ、アートと個人の関係をテクノロジーで変革させ、新たな価値の提示を目指しています。

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The Chain Museumは、遠山正道×クリエイター集団PARTYが新たに発信する  「アートの次のあり方をつくる」プロジェクトです。 アーティスト支援アプリの「ArtSticker」を運営しています。 https://artsticker.app/

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